「芸術状物質の謎 あの男が煙突から降りてきた」
飯村昭彦著/雷鳥社刊(1680円税込)

赤瀬川原平著「超芸術トマソン」の表紙ともなった煙突写真で有名な飯村昭彦さん初の写真集。
この本には超芸術トマソンや、トマソンの分類からちょっと外れた芸術状物質の不思議で美しい写真が掲載されている。トマソンというのは、建築物に付着した使い道はないんだけど、丁寧に保存されてい無用の長物のことで、窓のないヒサシや、昇ったはいいけど、降りるしかない無用階段などの物件のことを指す。詳しくは以下を参照のこと。
トマソン(Wikipedia)
http://ja.wikipedia.org/wiki/トマソン
私は、1983年に美学校の考現学研究室で学んでいたのだが、先生の赤瀬川さんが写真時代誌上でトマソンの連載をしていて、新たなトマソンのタイプが次々に登場してくるという時期だった。そして麻布谷町で発見された銭湯の煙突(浴場などは壊され、煙突だけが残っていた)に飯村さんが登り、魚眼レンズで自分や街を写し込むという暴挙に出たのも、ちょうどその頃の出来事だ。

今回の本にはトマソンも掲載されているが、メインはトマソンとも呼べない芸術状の物質。芸術状物質というのは、芸術家が意識的に造り上げたものではなく、名も知れぬ民が意図せず造ってしまったんだけど、芸術にしか見えないような物件のことを指す。被写体となっているのは街の中にある鉄柱や壁や立て札や自転車等々。何度も何度も違う色のペンキを塗り重ね、それが剥がれたり、剥がされたり、風雨に晒され腐食したりしながら、いつの間にか抽象絵画のようになってしまったものだ。
こういう剥がれたペイントや錆びたようなもんが好きな人というのは、世界中にいて、flickrでグループを作っていたりするけれど、飯村さんのスタンスは独特だ。まず、芸術(物件)ありきなので、飯村さん自身が主張をして物件を手篭めにするような撮り方ではない。あくまで冷静に作品を複写するようなスタンスなのだ。
だからと言って突き放すのではなく、きちんと作品と対峙し、大判のカメラを使ってじっくりと撮影する。たとえば、新宿の大ガードの側の鉄柱の後ろに黒いバックペーパーを垂らし、ライティングをしてかっちりと写す。その撮影風景を想像すると笑ってしまうが、写真自体は物件のディテールが緻密に描写されていて美しい。
今まで何度も写真は見せて貰ってたんだけど、本になってテキストを読みながら鑑賞してみると新たな発見があってなかなか面白い。梱包芸術のような物件やインスタレーションのような物件なども収録されていて、芸術とは何か? 写真とは何か? なんていうことを考えるためのヒントもいろいろあって楽しめる。大型書店や美術書に力を入れている書店の写真集のコーナーで出会えると思います。ぜひ手にとってみてください。
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